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第十五巻 別れを告げずに

アクーニン氏によれば、これがエラスト・ファンドーリンシリーズの最終巻。ファンドーリンの第一巻「アザゼリ」が刊行されてからちょうど20周年の、2018年2月8日に発売されました。

舞台となるのは、革命でロマノフ王朝が倒れ、白軍(帝政支持派)と赤軍(ボリシェビキ)とその他アナーキスト派とかが対立しまくっている、内戦下のロシア。

どちらの側にも味方しないことを決めているファンドーリンですが、いろいろな出会いやなりゆきで、あれこれ大活躍することになります。

さらに、60歳を過ぎて生涯の伴侶となるモナと出会い、子供までできちゃいます。

第一巻「アザゼリ」のリーザを失い、第十二巻「世界は劇場」のエリザと別れ、「三人目のエリザヴェータ」である妻モナを得たファンドーリン。ついに、彼の満たされぬ人生にハッピーエンドが訪れるのか…?

というところも含めて、見事に完結しました。

特にアクーニンファンとして嬉しいのは、ブルーダーシャフトのシリーズなどで出てきた人物たちが、この作品でついにファンドーリンと交錯すること。

第十三巻「黒い町」でも、ブルーダーシャフトシリーズのジュコーフスキー将軍がちらっと出てきたりしていましたが、ついに今回は主役のロマノフやコズロフスキーが登場して、ファンドーリンと協力したり対決したりします。

まさにアクーニン氏の創造した世界の集大成。伏線を刈り取りまくりで、実に圧巻な作品なのであります。

なお、白軍に潜入した赤軍スパイを中心としたストーリー展開は、1969年にソ連で放送された「将軍閣下の副官」というテレビドラマシリーズをモチーフにしているそうです。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

モナ内戦を逃れて、ロシア南部へ一人で旅をする娘。本名エリザヴェータ・トゥルーソワ。手先が器用で、本物の人間そっくりのロウ人形を作る。そしてその母親は、第二巻「トルコギャンビット」の主人公で、ファンドーリンに淡い恋をしたワーリャです。苗字が「ヤーブロコワ」じゃないということは、ワーリャとペーチャは結局別れたんですね。

赤軍(ボリシェビキ)の人々

アレクセイ・ロマノフ赤軍諜報部の大尉。もともとはロシア帝国軍の防諜将校で、ブルーダーシャフトのシリーズの主人公です。まさかこの人が、最終巻になってエラストシリーズに登場するとは!第一次大戦での悲しい体験により、心を閉ざしぎみになっている。
オルロフロマノフの上官で、モスクワ赤軍諜報部の隊長。ブルーダーシャフトのシリーズ第十幕「天使の大隊」ではグヴォズジョフという名前で登場しましたが、実はエラストシリーズ第十巻「ダイヤモンドの馬車 第一部」に出てきたドロズトという革命家と同一人物。「ダイヤモンドの馬車 第一部」で、日露戦争の最中にロシア国内に革命の騒乱を起こすため、このドロズドに武器を渡したのが二等大尉ルイブニコフですが、実はそのルイブニコフこそ…ファンドーリンが日本で忍者の娘オユミとの間にもうけた息子でした。うーむ、過去の出来事が、次々に伏線となって生きてきますね。また、エラストシリーズ第十三巻「黒い町」では、テロリストのオデッセイ(ジャーチェル)として登場します。
ザエンコ赤軍秘密警察のハリコフ支部長。残忍で手段を選ばない。
シューシャザエンコの手下の中国美女。清朝の皇后のボディーガードだったという、カンフーの達人。
ズーエフハリコフの赤軍地下組織の指導者。秘密警察のザエンコとは全く連携していない。
ナージャズーエフの娘で、赤軍地下組織のために暗号通信などをしている。ロマノフに恋をする。

アナーキストの人々

アーロン・ボーリャアナーキスト集団のリーダー。自由こそ至上と考え、帝政打倒ではボリシェビキと共闘したが、今は対立している。
ジーキアナーキスト集団の武闘派隊長。グルジア人。
ルィシボーリャを慕う女性隊員。「ルィシ」というのはあだ名で、ヤマネコのことらしいです。
ネフスキー麻薬中毒の演劇役者。
ジョブトグーブロシア南部で自治区「緑の学校」を治めるリーダー。

白軍の人々

ヴェーニャモスクワの白軍地下組織の青年。天真爛漫だが、不用心すぎる。
ジナイーダヴェーニャの姉。夫を第一次大戦で亡くした。
サッビンモスクワ白軍のリーダー。
ポルカーノフモスクワ白軍地下組織の武闘派隊長。サッカー好き。
ミルキンモスクワ白軍の騎兵将校。ユダヤ人。
カントローヴィチ赤軍から脱走した二等大尉。しかして、その正体はアレクセイ・ロマノフ。
スクーキン野心家の参謀将校。恐怖政治によるロシアの支配をめざしている。
ガイ・ガエフスキーハリコフで戦う、白軍の勇猛な将軍。スクーキンの親戚。変な名前ですが、マイ・マエフスキーという実在の将軍をモデルにしているらしい。
マコーリツェフガイ・ガエフスキーの副官。実在のマイ・マエフスキーの副官・マカロフ大尉という人をモデルにしているらしい。
コズロフスキー白軍防諜部の隊長。ブルーダーシャフトのシリーズの登場人物で、アレクセイ・ロマノフの元上官かつ友人。
チェレーポフ白軍防諜部の乱暴者。残虐で拷問するのが好き。

ストーリー

ファンドーリンが昏睡から目覚め、アナーキスト組織と接触する。

第十三巻「黒い町」で銃弾を受けたファンドーリンは、3年間昏睡状態だったが、ついに目覚める。起きてみると革命によりロシア帝国は崩壊し、赤軍・白軍・アナーキストの内戦状態。

モスクワ市内を見て回ったファンドーリンは、アナーキストの兵士に子供の形見を奪われた老夫婦に出会う。形見を取り戻そうと、ファンドーリンはアナーキストの本部に潜入。指導者のアーロン・ボーリャと出会う。

推理力で泥棒兵士を見つけ出し、アナーキストたちの信頼を得たファンドーリン。そこに赤軍部隊が襲撃してくる。銃撃の中、ファンドーリンはボーリャが脱出する手助けをする。

赤軍諜報員のロマノフは、白軍地下組織の蜂起を未然に防ぐ。

同じモスクワで、赤軍のために働くアレクセイ・ロマノフ。ロシア帝国軍将校だった経歴を活かし、白軍地下組織に二重スパイとして潜入する。

巧みな作戦で地下組織の信頼をつかむロマノフ。組織メンバーのジナイーダはロマノフに恋をし、武闘隊長のポルカーノフはロマノフを自分の右腕にする。

地下組織の一斉蜂起計画を知ったロマノフは、この機会にメンバーを全員逮捕する作戦をたてる。しかし最後の最後で非情になりきれず、中途半端な結果になる。

内戦を逃れてロシア南部を目指すモナは、道中で運命の相手ファンドーリンに出会う。

内戦を逃れて黒海からヨーロッパへ脱出を図る娘モナは、暴漢に襲われそうなところを謎の老修道士に助けられる。途中で赤軍から脱走したカントローヴィチ、スクーキンと出会い、一緒に船で移動する。

途中のアナーキストの自治区「緑の学校」で、つかまったり処刑されそうになったりする。その中で、謎の老修道士の正体が判明する。彼は、なんとモナの母親が40年前に恋したエラスト・ファンドーリンだった。

母と同じ運命を感じたモナは、歳の差もなんのそのでファンドーリンと結ばれる。

白軍支配下のハリコフで、赤軍のテロ作戦とファンドーリンが対決。

ロシア南部、ハリコフ。赤軍の爆弾テロによって、孤児院の子どもたちが犠牲になる。怒ったファンドーリンは、白軍防諜部のコズロフスキーに協力し、白軍中枢にいる赤軍のスパイを探す。

一方、ハリコフの白軍にまたもや二重スパイとして潜入したロマノフ。味方のはずの赤軍は、ロマノフらの組織以外にザエンコの秘密警察があり、お互い勝手にテロ活動をしてややこしくなる。

ファンドーリンの従僕マサは、ザエンコのボディーガードのカンフー女子シューシャと対決する。そんでもって、シューシャの強さに恋をしたりする。

そんなこんなでテロが続き、だんだん劣勢になってきた白軍。アナーキスト集団に背後から攻撃されて、絶体絶命になる。

ファンドーリンに助けを求める白軍の総司令官。ボリシェビキの恐ろしさを語る司令官の言葉に動かされたファンドーリンは、アナーキスト部隊にいるアーロン・ボーリャを説得するため、妊婦の妻モナを置いて、単身で出発するが…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。しかしそのまま載せると著作権侵害なので、それを参考にして、自分で描きなおしました。下手すぎて複製には当たらないでしょう。
!(^^)!

サクーロフ氏の絵と全く別物になってますが、ファンドーリンと30歳以上の年の差婚をするモナ。
赤軍の二重スパイ アレクセイ・ロマノフ。いやこんな顔ちゃうで大失敗。
急に画風が変わりましたが、野心家の参謀将校スクーキン。

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