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第十四巻 水の惑星

中編集。表題作「水の惑星」をはじめ、「一つの帆」「どこへ船を向けるか?」の三篇を収録しています。

前作の第十三巻「黒い町」は、ラストで「ファンドーリン死す?」的な意味深な終わり方をしていました。今回の三篇はそれより前の時代の話なので、ファンドーリンが無事だったのか、謎解きはありません。

アクーニン氏のブログによれば、この後の第十五巻でファンドーリンのシリーズは完結するらしい。謎解きはそれまでおあずけです。まあ、結局無事だったんでしょうけどね。

表題作の「水の惑星」は一番長くて、ジュール・ヴェルヌの「海底二万哩」みたいな海洋潜水冒険小説です。潜水艦で宝探し中のファンドーリンが、謎の海洋帝国アトランティスと対決します。

「一つの帆」は、修道女の惨殺事件を捜査する話。注目すべきは、尼僧ペラギヤのシリーズの舞台である、田舎のザヴォルジュスクで事件が起こることです。残念ながら、ペラギヤやミトロファーニイ主教がイスラエルに行ってしまった後なので、ファンドーリンとペラギヤが出会うことはありません。

最後の「どこへ船を向けるか?」は、冷酷な強盗殺人犯を追跡する話。ラストにロシア革命の首謀者レーニンやスターリンも出てきます。「どこへ船を向けるか?」というタイトルは、「革命をどう進めるか?」という意味のレーニンの発言です。

第一話 水の惑星

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

ピット・ブル天才エンジニア。ファンドーリンと潜水艇を開発している。アメリカ国籍だが、もとはユダヤ系ロシア人。
ナポレオン4世ナポレオンの子孫で、海底都市アトランティスを建設したリーダー。人類世界の改革を夢見て、独自の潜水艦戦隊で世界に戦いを挑もうとする。
クランクアトランティスで兵器開発をしている天才科学者。少女を殺す趣味のあるサイコ野郎。
べリンダ結核の少女。サン・コンスタンチン島の療養所に入院している。
シュランゲンシュヴァンツドイツ人看護婦。サン・コンスタンチン島の結核療養所で寮母をしている。厳しいので、入院中の少女たちからはコブラと呼ばれている。
トーントンイギリスの情報機関隊長。
フィンチトーントンの部下。海底都市アトランティスに潜入している。

ストーリー

潜水艇で宝探しをしていたファンドーリンとマサは、ロンドンで起きた少女猟奇殺人事件の犯人クランクが、大西洋のサン・コンスタンチン島にいるらしいことを知る。サン・コンスタンチン島には少女だけ入れる結核療養所や、謎の巨大製薬会社があり、実に怪しい。

イギリス情報部に依頼されたりして、ファンドーリンは島に潜入。そこで、島の地下に巨大な海底都市アトランティスが建設されていることを知る。

アトランティスのリーダーは、ナポレオン4世という男だった。彼は、人類を進歩させるため、潜水艦の艦隊で全世界に戦争を仕掛けると言う。

戦いの中で、マサがやられた(と思った)ファンドーリンは、復習に燃え、ナポレオン4世を倒すためにアトランティスを沈没させようとするが…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

ファンドーリンとマサの潜水艇「レモン2号」。

第二話 一つの帆

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

フェブロニヤ修道女で、ファンドーリンのかつての恋人。ザヴォルジュスクにある「我が憂いを癒し給え」という名前の修道院の院長だったが、何者かに惨殺された。はっきりと書かれていませんが、おそらく第五巻「装飾家」に出てきたアンゲリーナと同一人物と思われます。
クラチコフザヴォルジュスクの地方検事補佐。ロシアの田舎の後進性に絶望し、麻薬中毒になっている。
アンヌシュキナ女医。強気で男っぽい。
オリシェフスキー脱獄囚。アンヌシュキナの婚約者。
シュガーイ森にすむ地元の野蛮人。吹き矢で狩りをする。
エッヴーラ「我が憂いを癒し給え」修道院の修道女。高圧的で、フェブロニヤを嫌っていた。
ベベーヤ100歳近い修道女。盲目。
イヤ若い修道女。夢遊病で、夜ごと歩き回る。
マネーファ修道女。知的障害がある。

ストーリー

新聞でとある修道女の惨殺事件を知ったファンドーリン。よく見ると、被害者はかつての恋人だった。

怒りと悲しみに燃えるファンドーリンは、ザヴォルジュスクにある事件現場に向かう。やる気をなくして堕落した検事補クラチコフを連れて、「一つの帆」島に建てられた、「我が憂いを癒し給え」という変な名前の修道院に向かう。

修道院には4人の修道女がいるだけだが、周りには強気の女医アンヌシュキナや脱獄囚オリシェフスキーや野蛮な狩人シュガーイなど、怪しい人間がたくさんいる。

犯行の残虐さから、シュガーイが犯人とにらむファンドーリンと検事補クラチコフ。しかし追跡する中で、オリシェフスキーやクラチコフが次々にシュガーイの吹き矢に倒されてゆき…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

ヴォルガ川に突き出た断崖の小島。ヨットみたいな船の形に見立てて「一つの帆」島と呼ばれており、頂上に「我が憂いを癒し給え」修道院が建てられています。

第三話 どこへ船を向けるか?

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

ルジェーヴィチ郵便列車を襲って大金を強奪した盗賊。単独行動で、大胆な犯罪を遂行する。小男で潔癖症。
パブロフ中佐鉄道憲兵隊の隊長。凡庸なので、ファンドーリンの推理にすべて任せている。
ズーエフ鉄道憲兵隊の将校。

ストーリー

鉄道でポーランドを通過中のファンドーリンは、郵便列車の強盗事件に遭遇する。憲兵隊のパブロフ中佐に協力し、犯人はたったの一人だと解明する。

犯人のルジェーヴィチを追うファンドーリン。楽勝と思いきや、ルジェーヴィチは手段を選ばず、多くの犠牲者が出る。

怒りに燃えるファンドーリンは、ついにクラクフの町でルジェーヴィチを捕まえる。ちょうどそこには、亡命中の革命家レーニンやスターリンもいるが…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

ファンドーリンらに包囲され、レストランで暴れる強盗ルジェーヴィチ。

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