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第二巻 トルコギャンビット

露土戦争の歴史を舞台に、ファンドーリンとトルコのスパイが対決する、スパイ小説。

舞台となっている露土戦争自体が日本人にはなじみがないので、普通の人は分かりにくいでしょう。日本語訳が出ていないのも、そのせいだそうです。

実際の歴史では、名将オスマン・パシャ率いるオスマン・トルコ軍が、プレブナの町を死守し、ロシア軍が苦戦したわけですが、「その裏にトルコのスパイの計略があった」という架空のストーリーが織り込まれています。

気の強い娘ワーリャを主人公に、英雄の将軍や、イギリスやフランスのジャーナリスト、はては皇帝アレクサンドル二世まで出てくるなど、多彩な登場人物が魅力の一つ。

物語の舞台も、プレブナの戦場からルーマニアの首都ブカレスト、さらにはイスタンブール郊外の町など、スペクタクル&異国情緒たっぷり。謎解きの部分はやや強引ですが、細かいことは気にせず、テンポの速いストーリーを楽しむのがよろしいでございましょう。

登場人物

ファンドーリン以外の登場人物たち。

架空の人物

ワーリャ(ワルワーラ・スヴォーラヴァ)この作品の主人公で、彼女を中心にすべてが描かれている。上流階級の娘だが「進歩的な考え」を持ち、独立した女性としての人生を求めている。婚約者のペーチャを追って、プレブナ包囲の最前線まで来てしまう。
ペーチャ(ピョートル・ヤーブロコフ)ワーリャの婚約者で理系くん。暗号手として、ロシア軍の司令部に配属される。
ミハイル・ソボレフ将軍血気盛んな英雄。第四巻にも出てきます。
シャルル・デブレフランスの新聞「レヴュ・パリジャン」の記者。ロシア軍に同行し、最前線で取材中。いかにもフランス人な伊達男。
マクラフリンイギリスの新聞「デイリー・ポスト」の記者。アイルランド人だが、いずれにせよ天気の話しかしない英国紳士。
カザンザキ中佐憲兵隊の嫌な奴。ペーチャのスパイ行為を疑って逮捕する。
ズ―ロフ伯爵第一巻にも出てきた血の気の多い軽騎兵。ファンドーリンの友人(?)。
ルカン大佐ロシアの同盟国ルーマニアの大佐。好色かつ間抜け。
アンヴァル・エフェンディトルコの宰相ミドハト・パシャの二の腕。ロシア軍のプレブナ攻略を妨害するためスパイ作戦を遂行する。
ミジーノフ将軍独立憲兵隊の司令官。
ピリピョールキン大尉トルコの盗賊の捕虜になっていたが、ソボレフに救われる。以降、ソボレフの参謀長として仕えることに。
ミーシャ・グリドネフソボレフがワーリャの副官として派遣した、若い見習い士官。映画版ではなぜか軍用蒸気牽引車の技術者に役割が変えられている。

歴史上実在の人物

アレクサンドル二世ロシア皇帝。農奴解放令などで有名。
ガネツキー将軍ちょっと間抜け的に描かれていてかわいそう。
オスマン・パシャプレブナ防衛で決死の抵抗を見せたオスマン・トルコの名将。名前しか出てきませんけどね。
ミドハト・パシャ同じく名前だけの出演。「ミドハト憲法」で有名な、オスマン・トルコの改革者。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

ワーリャ、プレブナの最前線へ

主人公ワーリャは、従軍している婚約者ペーチャを追って、ブルガリアの最前線へ。ガイドに騙され困っていたところ、ファンドーリンに助けられる。二人はトルコの盗賊団に襲われるが、ソボレフ将軍の一団が現れ助ける。

ソボレフの司令部に迎えられた、ワーリャとファンドーリン。そこにミジーノフ将軍が現れ、トルコのスパイ アンヴァル・エフェンディの脅威を解説。ファンドーリンにアンヴァルの計画を探るよう命じる。

アンヴァル・エフェンディの計略によって、ロシア軍のプレブナ攻略が失敗

ファンドーリンの情報によってプレブナ占領に向かうはずの部隊が、なぜかニコポリスを占領してしまう。憲兵のカザンザキ少佐は、命令の暗号化を担当したペーチャを疑い、逮捕する。ワーリャはペーチャを救うため、ファンドーリンとアンヴァルの捜査をする。

フランスの記者デブレは、単身トルコ軍に潜入し、アリ・ベイ大佐にインタビューすることに成功。その情報からトルコ軍の兵力は少ないと判断したロシア軍は正面攻撃をかけるが、実は大軍がいて失敗。デブレはスパイ容疑で逮捕される。

そんな中、第一巻でファンドーリンの友人(?)となった軽騎兵ズ―ロフ伯爵が登場。賭けトランプでルーマニアのルカン大佐をすってんてんに負かす。

ワーリャ、ルカン大佐を追ってブカレストへ

賭けに負け続けのルカン大佐は、なぜか無尽蔵の資金を持っている。ロシア軍の総攻撃を前に、ワーリャと豪勢な朝食をとり、ロシア軍の失敗を予言する

ルカンの予言通り、攻撃はトルコ軍の正確な砲撃によって失敗。ファンドーリンは、ルカンがトルコに攻撃計画を漏らしたのではないかと疑う。ワーリャは、秘密を探るため、ルーマニアの首都ブカレストで捜査する。

ロシア軍の第三回プレブナ総攻撃

今度こそとばかりに入念な準備で総攻撃をかけたロシア軍。ソボレフの別働隊は、一時プレブナ突入に成功。援軍を求めて、ズ―ロフが総司令部に向かう。

しかしズ―ロフはなぜか行方不明になり、ソボレフはトルコ軍の反撃で撃退される。姿を消した憲兵のカザンザキ中佐が疑われる。

一方、ワーリャはチフスにかかり、野戦病院に入院する。

ついにプレブナ占領。陰謀の解明へ

退院したワーリャは司令部に戻る途中、マクラフリンに出会う。マクラフリンがうっかりしゃべった情報のおかげで、ファンドーリンはトルコの奇襲攻撃を防ぐことに成功する。

ついにオスマン・パシャは降伏し、プレブナは占領される。皇帝アレクサンドル二世はミジーノフ、ファンドーリン、ワーリャを謁見し、事件の裏にイギリスの陰謀があるのではないかと疑う。

ファンドーリンは陰謀を調査するため、ロンドンに向かう。

そして結末へ

ロシア軍の快進撃が続く。ソボレフは小数の部隊を率いてコンスタンチノープル突入を図る。

そこへミジーノフとファンドーリンが登場。全ての謎が開かされる。果たしてアンヴァル・エフェンディは誰なのか?そして彼の最後の計略とは…?

テレビ映画化作品について

この作品は、2005年にテレビ映画化されました。

主演はロシアの人気俳優エゴール・ベローエフ。脚本もアクーニン氏が担当したようですが、だいぶ変わっています。あと、結末はわざと小説と変えたそうです。

うーむ、ファンドーリンが妙に陽気なキャラに変わってるのが気になります。

エゴール・ベローエフ扮するファンドーリン。ちょっとイメージちゃうなー。それに白くなったもみあげが無いやん。
オリガ・クラシコーのワーリャ。美女。
物語の冒頭で、ブルガリアの少年に化けてるワーリャ。
座っているのがデブレとワーリャ。白い服がソボレフ。頭に包帯巻いてるのがピリピョールキン。
太いのがミジーノフで細いのがカザンザキ。どちらも、悪名高い憲兵の「青い軍服」姿。
眼鏡をかけた理系オタクのペーチャ。偏平足のせいで歩兵になれず、暗号手として勤めることに。後ろは映画版にしか出てこない志願兵ルンツ。
九死に一生を得たピリピョールキン大尉。世の中には、こんな鼻のでかい人がいるのか。
イギリス紙「デイリー・ポスト」の特派員マクラフリン。演じてる役者はポーランド人らしい。
トルコ軍の参謀イスマイル・ベイ大佐。映画にしか出てきません。役者はロシア人らしい。
アンヴァル・エフェンディの計略によって、ロシア軍の攻撃は惨憺たる失敗に。
ブカレストでの騒動で、ワーリャは「ちゃんとした女性」としての名声を失うことに。ヒゲがズ―ロフで後ろはデブレ。ズ―ロフの、あばら骨みたいなヒモ飾りがついた軍服は、グサール(軽騎兵)のトレードマーク。

作品の見どころ

ファンドーリンため息つきすぎ

前作(第一巻)でのショックから立ち直れないファンドーリンは、この作品中ずっと陰鬱な様子で、捜査もイヤイヤやっているみたいです。一方のワーリャは社会の進歩を信奉する熱血娘で、この二人を対比させるのがアクーニン氏の狙いなのでしょう。

このワーリャとファンドーリンの凸凹コンビぶりが、なかなか効いていると思います。すぐにカッとなるワーリャと、常に冷静にいなすファンドーリン(実は年下のくせに)。二人の会話シーンは、作品のいいメリハリになってます。

露土戦争が舞台とかレアすぎ

なんといっても、露土戦争という日本ではかなりレアな歴史を舞台に描かれる、というのが最大の魅力です。

露土戦争とは -オンライン辞書kotobankによると-

露土戦争【ろとせんそう】

ロシア・トルコ戦争とも。クリミア戦争(1853年―1856年)に敗れてロシアの南下政策は停滞したが,1875年以後のオスマン帝国(トルコ)支配下のスラブ系民族の反乱を機に,これを支援するロシアが1877年トルコと行った戦争。

とのことです。プレブナ防衛戦でオスマン・トルコ軍もがんばるが、結局ロシアが勝って、サン・ステファノ条約でロシアのバルカン半島進出が認められる。しかしイギリス&オーストリアの反対で、ベルリン会議で修正された…ということですが、学校の世界史ではまずスルーするところですね。

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