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第十巻 ダイヤモンドの馬車 第一部

ファンドーリンが忍者集団と対決する物語。第一部は1905年、日露戦争下のロシアを舞台に、日本のスパイとして活動する忍者の末裔と戦います。第二部に比べると中編小説くらいの分量しかない短さで、まあ前フリ的な感じですな。

一方、第二部では、時代をさかのぼって1878年の横浜が舞台。敵である忍者集団の秘密など、一切の謎はこちらで明かされます。

第一部には「トンボ狩り」という副題が付いています。主人公?のルイブニコフが、子供のころトンボ狩りが好きだった、ということで。第二部の副題は「行間」となっていますが、これは何のことかよく分かりません。

この第一部は三パート構成で、それぞれ「上の句」「中の句」「下の句」と名付けられ、各章のタイトルにはひらがな一文字が添えられています。全てのひらがなをあわせると、「とんぼつり けふはどこまで いつたやら」という俳句になっています。加賀千代女(かがのちよじょ)という江戸時代の人の作だそうな。

この俳句の秘密も、第二部で明かされることになります。アクーニン氏も、ようこんな俳句知ってましたな。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち

ルイブニコフ少し東洋風の風貌をした二等大尉。実は日本のエージェント。さらに実は忍者で、その両親は…そのへんの事情は第二部で明かされます。なお、「日本のスパイの二等大尉ルイブニコフ」という人物設定は、アレクサンドル・クプリーンという人の1905年の小説『二等大尉ルイブニコフ』がもとになっているそうです。
グリケリヤ・リージナルイブニコフと同じ客車に乗り合わせた美女。公用の書類を無くしたと嘘をついたルイブニコフに同情し、あれこれ助けようと付きまとう。
ムイリニコフモスクワ特別警察の監視部門隊長。第六巻にも出てきた、対テロ・対スパイの敏腕エージェントですね。もう60過ぎになって、防諜活動に疲れ退役願いを出したが、日露戦争勃発で辞めさせてもらえない。
ベアトリスルイブニコフを助ける伯爵夫人。
アストラロフ=リジングリケリヤの元夫でテノール歌手。
ドロズドロシアの革命家。ルイブニコフの調達した武器を受け取る。「ドロズド」というのは、革命家としての変名で、鳥のツグミのことです。
”トンネル”クラスノヤルスクの貨物鉄道職員。金のために、ルイブニコフの秘密工作に協力する。「トンネル」というのは、ルイブニコフが個人的につけたコードネームで、本名は明らかにされてません。
”橋”サマーラの元学生。革命グループのメンバーで、世を恨み、死にたがっている。ルイブニコフの指示で、鉄道橋の爆破を図る。「橋」はルイブニコフがつけたコードネームで、本名は不明。
ダニロフ憲兵隊の中佐。
リシツキー憲兵隊の二等大尉。ポーランド語に堪能。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

ペテルブルク‐モスクワ間の鉄道橋が謎の崩落。

二等大尉ルイブニコフは、モスクワに向かう列車内で美女グリケリヤを助ける。実はルイブニコフは日本のエージェントで、車内から爆弾を落とし、モスクワ郊外の鉄道橋を破壊する。

一方、日本通のファンドーリンは、日露戦争の開戦でビミョーな立場になる。しかしロシアの鉄道網に日本スパイの破壊工作が迫っていることを知り、祖国のために働く決意をする。

鉄道橋の崩落現場で、グリケリヤとルイブニコフは、ファンドーリンらの捜査チームに出会う。ルイブニコフがスパイだと知らないグリケリヤは、彼を助けようととっさに嘘をつく。これに騙されて、ファンドーリンらはポーランド人の盗賊団を革命グループと勘違いし、追跡する。

大規模なロシア国内撹乱計画。ファンドーリンは阻止できるか?

ルイブニコフは、モスクワで工作活動をする。協力者の「トンネル」や「橋」に接触し、鉄道爆破に協力させる。また、革命家のドロズドに、武器提供の密約をする。

一方、グリケリヤは、あいかわらず彼を助けようとつきまとう。ついにはルイブニコフの頼みで、ファンドーリンに再び接触する。

ファンドーリンは、グリケリヤとルイブニコフの関係を、一発で見抜く。結果、ファンドーリンとムイリニコフは、ルイブニコフの潜伏先であるベアトリスの屋敷を発見する。勝手に突入したムイリニコフの部隊は、怪しい忍術で幻惑される。

ルイブニコフは、ドロズドに渡すため、波止場で武器を積み込む。そこにファンドーリンが突入。ルイブニコフは水とんの術(!)で逃れようとするが…。

他の巻とのつながり小ネタ

第七巻の主人公ジューキンのその後の運命は…

第七巻「戴冠式」の主人公ジューキンは、第七巻の最後で「船乗りにでもなって別の人生を歩みたいなー。いやムリムリ」と考えていました。彼がその後どうしたか、実はこの巻にヒントがあります。

冒頭、モスクワに向かう客車内で、ルイブニコフがグリケリヤに新聞の記事を読んで聞かせるシーンがあります。

「対馬の沖で、皇帝と祖国のために死んだ将校のリストがありますよ。… "装甲艦 '公爵クトゥーゾフ・スモレンスキー' : 艦隊副司令レオンチエフ少将、艦長エンドルング大佐、艦隊主計ジューキン五等官…" 」

そうですかー。あのエンドルングやジューキンは、日本海海戦で戦死したんですかー。超保守的おやじのジューキンも、勇気を持って新しい人生に踏み出したんですね、しんみり。 …っていやもちろん架空の人物なんですが。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。しかしそのまま載せると著作権侵害なので、それを参考にして、自分で描きなおしました。下手すぎて複製には当たらないでしょう。
!(^^)!

サクーロフ氏の絵と全く別物になってますが、ルイブニコフを助けようとする令嬢グリケリヤ。いい人なんですが、余計な事ばかりします。
日本のスパイでロシア軍二等大尉のルイブニコフ。ロシアと日本のハーフですが、果たして誰の子どもなのか…?

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