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第十二巻 世界は劇場

時は1911年、55歳のファンドーリンを襲った、人生の一大転機について描かれる。

舞台は、モスクワで人気の新進劇団「ノアの箱舟」。看板女優のエリザと、怪しい座長のシュテルン、くせのありまくりな劇団員たちなど、多彩な人物が登場します。

過去のトラウマで、長らく女性と真剣な交際に進まなかったファンドーリンですが、今回は運命の女性エリザに一目ぼれ。エリザも相思相愛になるが、いろいろの事情でお互いあえてそっけない態度をとったりして、非常にめんどくさい展開が続きます。

うーむ恋愛話に興味がない者には、ちょっと話の展開がのろすぎるように思えますな。

恋にのぼせたファンドーリンは、はじめてマサとケンカ状態になったりします。いいおっさんが何やってんだか。

なお、巻末に付録として、ファンドーリンがエリザを口説くために書いた戯曲「闇夜の二つの箒星」が収録されています。美女の芸者と忍者の恋という、実にばかばかしい作品。しかし本編では、「ノアの箱舟」はこれを上演して、大成功をおさめたことになっております。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

オリガ・クニッペル=チェーホヴァ文豪チェーホフの婦人。実在の人物ですね。ファンドーリンに、友人のエリザを助けるよう依頼する。
シュストロフ新進の劇団「ノアの箱舟」を後援している「演劇・映画社」の社長。
ムッシュ・シモンシュストロフの事業パートナーで、「演劇・映画社」の映画部門を担当している。パリ帰りのロシア人ですが、その正体は第九巻「死の恋人(男)」の主人公セニカ・スコーリコフ。立派になりましたな。ところで苗字のシュストロフもスコーリコフも、語源としては「素早いやつ」みたいな意味です。
リンバフ中尉軽騎兵。「ノアの箱舟」の主演女優エリザの熱狂的ファン。
ツァリコフダフ屋の元締めとかいろいろ裏稼業をしている、演劇業界の影の支配者。
ミスター・スヴィストツァリコフの右腕。
ハン・アルタイルスキーエリザの元夫。中央アジア人。
スッボーチン警察の捜査官。

劇団「ノアの箱舟」のメンバー

エリザ・アルタイルスカヤ=ルアンテン看板女優。ファンドーリンの悲恋の相手リーザをほうふつとさせる。リーザについては、第一巻「アザゼリ」を参照。
シュテルンやりての座長。出演もする。
スマラグドフ主演男優でイケメン。ただし、おつむの方はあまりできが良くない。
ジェビャートキンシュテルンの助手的な俳優。もと陸軍工兵中尉。勇敢だが、ピント外れの行動が多い。
レギーニナ年配の女優。かつては美女。
ラズウモフスキーレギーニナの元夫。
ロフチーリン詐欺師役の若者。
クルブニーキナ若い娘。色仕掛けでせまる役。
リシツカヤいじわる女役。魔女みたいな人相をしている。
メフィストフ悪人役のおっさん。
プロスタコフ純朴まぬけ役。
ドゥーロヴァまぬけ役のちっこい女性。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

ファンドーリン、劇場で運命の女性エリザと出会う。

人気女優のエリザのトラブルを解決してほしいと、依頼されたファンドーリン。演劇とかバカにしていたが、劇場に出かける。

エリザを見るや、第一巻「アザゼリ」に出てきたリーザを思い出し、ぞっこん惚れ込んでしまう。

その舞台で、エリザ宛ての花に、何者かが毒ヘビを忍ばせる事件が発生。ファンドーリンは、劇団の座長シュテルンの許可を得て、捜査を開始する。

劇団関係者が、相次いで変死。

エリザは、元夫のアルタイルスキーから、ストーカーのように付きまとわれている。彼女と恋仲になった者は、次々に変死。

主演俳優のスマラグドフも、謎の服毒自殺を遂げる。エリザは、アルタイルスキーの犯行だと信じる。

一方ファンドーリンは、エリザを口説くため、マサのアドバイスで、芸者をテーマにした戯曲「闇夜の二つの箒星」を書く。座長のシュテルンは感激して、さっそく上演作品に採用する。

ファンドーリンは主役の忍者を自分で演じるつもりだったが、マサに取られてしまい、ケンカ状態になる。エリザはファンドーリンに惚れるが、アルタイルスキーが彼にちょっかいを出すことを恐れて、あえてつれない態度をとる。

「闇夜の二つの箒星」が初日を迎え、大成功をおさめる。喜ぶのもつかの間、エリザの熱狂的ファンのリンバフ中尉が変死体で発見され、警察は自殺と判断する。

ダフ屋の親玉ツァリコフのアジトに突入。

劇団員のジェビャートキンとファンドーリンは、お互いを犯人だと疑っていたが、協力して操作することになる。

二人はダフ屋のツァリコフが怪しいと思い、アジトに突入する。ツァリコフは逃げ出し、そのままアメリカまで逃げてしまう。

お互い惚れあっていながら、よそよそしいファンドーリンとエリザ。まどろっこしい展開の中、社長のシュストロフがエリザにプロポーズする。断られたシュストロフは、変死体で発見され、警察は自殺と判断する。

キレたエリザは、アルタイルスキーをぶっ殺そうと銃撃するが、安全装置の外し方が分からなくて失敗する。

劇団の日誌に書かれた、謎の暗号とは。

そんなこんなの間に、劇団の日誌には「ベネフィス(名誉公演?)まであと2つ」とかなんとか、謎の文言が何度も書かれるいたずらが発生。怒るシュテルン。

ファンドーリンは恋にのぼせて、頭脳がいまいち働かない。「あと2つ」とかの数字に秘密があると推理し、1が11個あってどうとか、もごもごつぶやいている。というさなかに、ついに全ての黒幕が現れ、恐るべき計画を明らかにする…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

チェーホフ夫人のオリガから、電話で依頼を受けるファンドーリン。すっかり白髪になっとる。一方、マサは剃髪してつるつるになってます。
劇団「ノアの箱舟」のメイン俳優スマラグドフが、変死体で発見される。
日本文化について、エリザに熱く語るファンドーリン。
ジェビャートキンとフェンシングで対決するファンドーリン。
劇団のメンバーに、新聞記事を読んで聞かせるマサ。
ファンドーリンに襲撃され、逃げ出すツァリコフ。
シュストロフが自殺したのはおまえのせいだとエリザに喰ってかかる、ムッシュ・シモンこと、セニカ・スコーリコフ。第九巻「死の恋人(男)」の主人公です。なつかしいー。
事件にケリをつけるため、元夫ハン・アルタイルスキーを射殺しようとするエリザ。左下の写真がアルタイルスキー。エリザの隣にいる男はジェビャートキン。
劇場のセット(日本の茶店"ヤナギ"の座敷)に落下したファンドーリンと、某人物。

他の巻とのつながり小ネタ

エリザの元恋人のテノール歌手

エリザの昔の恋人で、変死したテノール歌手アストラロフというのが名前だけでてきますが、これは第十巻「ダイヤモンドの馬車 第一部」に出てきたアストラロフ=リジンですね。つーことは、結局彼とグリケリヤは別れたわけね。

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