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第十巻 クルミの仏様

「ロシア国家の歴史」シリーズの、小説パート第五作目。いつもは一冊に二~三の中・短編小説が収録されますが、今回は表題作「クルミの仏様」だけで一冊です。

ピョートル大帝の治世で、ロシアがスウェーデンを破り、強国になりつつある時代が舞台。

今回のストーリーは、またしても日本に関連したもの。実はこのストーリーに決まるまでに、アクーニン氏はユニークな試みを実施しました。

それは、Facebookでフォロワーにむけて、

  •  1.日本に関連したストーリー
  •  2.過去作「9の救世主」の続き
  •  3.ジャートロフ峠事件(1959年にトレッキング中の男女9人が謎の遭難死を遂げた事件)に関連したストーリー

のどれがいいか?とアンケートを取り、その結果で日本関連のストーリーに決めたのです。

いや、私は「日本のストーリーはやめてくれ」と必死のコメントを投げたんですがね。アクーニン氏の日本関連小説は、リアリティーがめちゃくちゃで、ほんと興ざめなんですよね。

でも残念ながら、ロシアの方々の多数意見でもって、日本ストーリーに決定してしまいました。

どんな話になるかと心配していましたが…やはりかなりトンデモでトホホな内容でした。

時は18世紀、ピョートル大帝治下のロシアに、なぜか日本の秘宝である小さな仏像「クルミ仏」が伝来。その秘宝を取り戻そうとしてはるばるやってきた日本仏僧シンペイと、敵対勢力との戦いに、孤児のカテリーナが巻き込まれたりします。

で、この坊主のシンペイがなぜか忍者で、布の翼で空を飛んだり、いろんな超人技を使ったり、まあ無茶苦茶です。

江戸時代の人物なのにカテリーナを現代日本語で「カータチャン」と呼んだり、法名のシンペイも「真兵」という僧らしくない漢字だったり、敵の親玉は「死ね+野郎」で「シネヤロー」という変な日本名だったり。

いくら気楽な小説とはいえ、アクーニン氏も、生半可な日本知識で適当なことを書かないでほしいです。まったく。

登場人物

カテリーナ(カータ)異端派ロシア正教の村で暮らす、孤児の少女。痩せててあまり美人じゃない。額にシミみたいな点がある。
マルタカテリーナの母。アムステルダムに住むオランダの商売女。ピョートル大帝のオランダ視察に随行したロージャと恋に落ちるが、カテリーナを出産した時に命を落とす。
ロージャピョートル大帝の侍従の若者。額にシミみたいな点がある。
アニケイ・トリョフグラーゾフロージャの父親。第八巻「トリョフグラーズイの一週間」の第二話「子ヘビを殺す」の主人公です。銃兵隊という近衛兵の隊長だったが、ピョートル大帝の気まぐれで、寵愛を失いつつある。
アガーフィヤアニケイの妻でロージャの母親。シベリアのモンゴル系民族。芯が強い。
ヴァニェイキンピョートル大帝の監察官。誰もが恐れる、皇帝の密偵。
シンペイ失われた秘宝を追ってロシアまで来た、日本の仏僧。漢字では「真兵」と書いて、「満生寺」という寺の秘仏「クルミ仏」を守る役目ということですが、そんな法名の坊さんはおかしいですよね。忍者みたいにいろんな超人技を使う。
ワシーリー・ゴリーツィンロシアの大貴族で、ピョートル大帝の政敵。失脚して北の地に流され、余生を送っている。カテリーナに口述筆記させ、「ロシアの政治はどうすればよいか」という本を書いている。
プローフ強制労働の造船所で、カテリーナを助ける囚人。もと脱走兵。強い。
ヤコブペテルブルクでシンペイと暮らしていた弟子の若者。スイス人。

ストーリー

日本の秘宝「クルミ仏」が、オランダ経由でロシアへ。

アムステルダムの商売女マルタは、ロシアのピョートル大帝に随行した侍従ロージャと恋に落ち、一緒にロシアに行くことにする。旅費を調達しようとするが、パトロンだったおっさんが金を払わないので、おっさんの金庫からちっこい仏像を盗み出す。

実はその仏像は、日本の満生寺から流出した秘宝「クルミ仏」だった。満生寺の僧シンペイは、仏像を取り戻すため、日本からはるばるヨーロッパに向かう。

マルタはなんとかモスクワにたどり着くが、ちょうど銃兵隊の反乱があり、ロージャやその父アニケイは殺される。身重のマルタは逃げながら娘カテリーナを産むが、産後に無理しすぎて死んでしまう。

カテリーナとシンペイは、監察官ヴァニェイキンの追っ手を逃れて旅をする。

北方の異端派ロシア正教団に助けられたカテリーナは、ピョートル大帝の政敵で追放されたゴリーツィン公爵の筆記役になる。ゴリーツィンは、ピョートル大帝を批判する本を口述筆記している。

そこにピョートルの監察官ヴァニェイキンがやって来て、ゴリーツィン公爵をぶち殺す。カテリーナは、公爵の口述した本を守って逃げ出す。

追われながらカテリーナは、シンペイと出会う。シンペイは、カテリーナがクルミ仏を持っているのを知り、共に日本を目指して旅をすることになる。

仏教的な謎の修行を続けながら、カテリーナは日本を目指す。

シンペイに見込まれて、カテリーナは道中で、仏僧になるためのトンデモな修行をする。旅は危険で、途中で強制労働の造船所に放り込まれたりするが、シンペイのトンデモ忍術を使ったりして切り抜ける。

ついにペテルブルクにたどり着いた二人。その時、ついに恐るべき敵ヴァニェイキンが現れて…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。しかしそのまま載せると著作権侵害なので、それを参考にして、自分で描きなおしました。下手すぎて複製には当たらないでしょう。
!(^^)!

主人公のカテリーナ。先祖にモンゴル人がおり、ちょっとアジア系の風貌。

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