TOP >エラスト・ファンドーリンのシリーズ >五等官

第六巻 五等官

ファンドーリンをはじめとする官憲側と、革命組織のテロリスト集団「戦闘団」が対決する、テロ小説(?)。

原題は「スターツキイ・サヴェートニク」で、英語では直訳気味に「The State Counselor」と訳されていたりしますが、実際はこれはロシア帝国の官位名で、あまり意味はないそうです。よって「五等官」という訳がふさわしいそうな。

1章ごとにファンドーリンの視点、テロリストのリーダーの視点と交互に描かれています。

官憲側にいる、テロリストへの内通者は誰なのか?という謎ときが、ストーリーの基本。モスクワの憲兵隊ではスヴェルチンスキーの部門とブルリャーエフの部門が対立していて、お互いに功を争ったりしていて、そこにペテルブルクからパジャルスキーも乱入してきて、組織間対立のややこしい中、いったい誰が黒幕なのか…。

この作品もテレビ映画化されました。ファンドーリン役はロシアきっての人気俳優オレグ・メンシコフ。ラスボス的キャラのパジャルスキー公爵には巨匠ニキータ・ミハルコフ。そしてテロリストのグリーンには、これまた人気の渋め俳優コンスタンチン・ハベンスキー。豪華すぎ~。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

官憲側

ドルゴルーコイ公爵過去巻にも登場のモスクワ総督。さっさと「戦闘団」を始末して治安を回復しないと、モスクワ総督の座が危ない。というわけでファンドーリンに期待を賭ける。
パジャルスキー公爵ペテルブルクから派遣されてきた切れ者。
スヴェルチンスキーモスクワの憲兵隊長。彼の部隊は「独立憲兵隊本部」の管轄下にあり、同じような仕事をするブルリャーエフの部門は警察庁の管轄下にある。
ブルリャーエフモスクワの「保安部」隊長。スヴェルチンスキーと権限がかぶるライバル。映画版では、話をシンプルにするため、2人が合体してブルチンスキーという1人の人物になっています。
ムイリニコフ保安部のいろいろな防諜工作活動をする隊長。第十巻の第一部にも出てきます。
ズプツォフ同じくいろんな防諜工作をする隊長。もと革命派だったが、過激な闘争を嫌って寝返った。映画版では出てきません。
スモリヤニノフ正義感に燃える熱血の憲兵中尉。第五巻にもちらっと出てきました。
エスフィリ・リトヴィノワ革命シンパの娘ながら、ファンドーリンに惚れてしまう。
ディアナ情報通の謎の女性。真っ暗な部屋にいて、ベールをかぶっている。
フラーポフ暗殺されるシベリア知事。
フォン・ゼイドリッツフラーポフの護衛隊長。暗殺犯への報復を狙っている。
シメオン大公皇帝アレクサンドル三世の弟。ドルゴルーコイに代わってモスクワ総督になる。

テロリスト側。テロ組織のメンバーは本名ではなくニックネームです。

グリーン革命組織の中の武装グループ「戦闘団」のリーダー。鉄の男。
イグラー(針)モスクワで革命本部と「戦闘団」の連絡係をする女性。実はもと男爵家の令嬢。
エメーリャグリーンの部下。ニックネームは、18世紀の農民反乱の指導者エメリヤン・プガチョフにちなんだそうな。アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』を読んでいる。
スネギリ(小鳥)グリーンが指導している若者。
コーズィリ(切り札)強盗・襲撃の専門家。
ラフメットグリーンの同志。もとは騎兵将校だったが、上官を射殺して脱走。乱暴者。ニックネームは、革命思想家チェルヌイシェフスキーの小説の主人公にちなんだそうです。
ジュリーペテルブルクで、いかがわしいお店をいとなむ美女。なぜか革命組織を助けている。
アロンゾン革命に同情的な大学講師。
ラリオーノフ革命組織の協力者。
ラバストフ開明的な実業家。グリーンに資金を援助している。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

テロ組織「戦闘団」が要人を次々と暗殺。

1891年のロシア、モスクワ郊外。シベリアに赴任する知事フラーポフが、列車内で暗殺された。凶器の短剣には、「БГ(BG:バエバーヤ・グルッパ=戦闘団)」のイニシャルが。犯人は「モスクワ管区での護衛役である五等官ファンドーリン」を名乗り、特別列車に潜入した模様。なぜテロ組織にファンドーリンの名前が漏れたのか?

ファンドーリンは、官憲内部にテロリストへの内通者がいると考え、捜査を開始する。

ペテルブルクからパジャルスキー公爵が着任。

「戦闘団」のリーダーであるグリーンは、時々届く謎の手紙によって、官憲側の動きを把握できるようになる。手紙には「ТГ(TG)」というイニシャルだけがあり、差出人は不明。

ファンドーリンは、憲兵隊のスヴェルチンスキーやブルリャーエフが通っている謎の女性ディアナを訪れる。ブルリャーエフは、ディアナから革命派のパーティーのことを知り、パーティー会場であるラリオーノフの家に突入する。

ファンドーリンも同行し、革命シンパの美女エスフィリと出会う。一方、「戦闘団」のラフメットは、ラリオーノフの家に来て官憲につかまってしまう。

そんな中、切れ者と噂のパジャルスキー公爵がモスクワにやって来る。さっそく鮮やかな手並みでラフメットを寝返らせ、二重スパイにしてグリーンのもとに送り込む。

官憲の必死の追及も、なぜか巧みにかわす「戦闘団」。

なんだかんだで、エスフィリはファンドーリンの愛人みたいになる。

グリーンら「戦闘団」は、革命本部の要請で、役所の馬車を襲い、大金を奪う。憲兵隊は駅を封鎖し、必死に捜査するが、アジトへの襲撃はなぜか情報が漏れ、手痛い反撃を喰らう。

ファンドーリンは一計を案じ、ペトロフスキー浴場でパジャルスキーと密会する。しかし、ファンドーリンの計略も情報が漏れ、「戦闘団」の襲撃を受ける。

いろいろあってパジャルスキーはついに「戦闘団」の尻尾をつかむ。「ТГ」の手紙を利用してグリーンらをおびき寄せ、一気に殲滅しようとする。一方、ファンドーリンは、情報がどこから漏れたのか推理する。はたして「ТГ」の正体は誰なのか…?

テレビ映画化作品について

この作品は、2005年にテレビ映画化されました。

主演はロシアの人気俳優オレグ・メンシコフ。確かにファンドーリンっぽさがありますね。さらにパジャルスキー役のニキータ・ミハルコフや、グリーン役のコンスタンチン・ハベンスキーなど、かなり豪華な配役。

脚本もアクーニン氏が担当したようですが、だいぶ変わっています。なお、テレビ映画ながら、過去のロシア映画で最大の制作費がかかったとか。うーんどこにそんなにかけたんでしょうか。

切れ者パジャルスキーの前では、ファンドーリンもやや影が薄くなった感あり。
エミリヤ・スピバーク演じるエスフィリ。美女ですが、この写真はタレントのベッキーさんに似てますね。
コンスタンチン・ハベンスキーのグリーン。しぶすぎ。
ドルゴルーコイ公爵の謝肉祭パーティーに出席したファンドーリンとエスフィリ。上流階級のパーティーで、エスフィリの進歩的ファッションがスキャンダルに。これは胸開きすぎですね。
ファンドーリンの左で、眼帯しているのがブルチンスキー。小説版のスヴェルチンスキー+ブルリャーエフです。
イグラー。声が特徴的な女優さん。オクサーナ・ファンジェーラさんというそうです。
ジュリーとグリーン。
ニキータ・ミハルコフのパジャルスキー公爵。事実上の主役と言うべき貫禄。
謎の女性ディアナ。暗闇の部屋で、顔をベールで隠し、ささやき声で話す。その正体は…?
ラリオーノフの家に乱暴に突入する官憲エージェントたち。

エラスト・ファンドーリンのシリーズTOPへ戻る