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ニコラスシリーズの第二巻は、現代と、18世紀・エカテリーナ大帝時代が舞台。
ニコラスと、18世紀の主人公で天才児のミトリダートが、ともに何者かから執拗に命を狙われます。どちらも、その背後には、大物実業家や宮廷の権力争いがあった、という設定。
さらに、父親と子供の関係・愛情もテーマになっております。ニコラスの二人の子供への愛情、外科医のクツェンコと娘ミランダとの関係、18世紀のミトリダートと父アレクセイの関係、そしてニコラスの先祖ダニラ・フォンドーリンと息子サムソンの関係…。もろもろの事情が絡み合って、現代で起こった事件のラストにつながっていきます。
題名の「課外読書」というのは、ミランダの家庭教師として雇われたニコラスが、ミランダに教えるよう頼まれたカリキュラムのこと。上流階級にふさわしい教養を身につけさせる、つーことです。ニコラスはいちおう英国男爵家の紳士ですので。
作品は上下2巻に分かれていて、かなり長いです。途中、奇妙なもやもやした展開が続いて、なかなかつらい。最後には全部スッキリ解決するわけですが、もうちょっと話をはしょってくれても良かったのでは…。
ニコラス以外の登場人物たち。
アルティン・ママエヴァ | 第一巻に続いて登場。というかニコラスと結婚しております。双子のエラストとゲーニャを産んだ後、いまはエロ雑誌「エロス」の編集長として職場復帰。 |
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エラストJr.とゲーニャ | ニコラスとアルティンの子供で双子。エラストは祖父の名を取ったんですね。ゲーニャはアンゲリーナの愛称ですが、日本語的感覚では、女の子の名前という感じがしませんな。 |
ワーリャ | ニコラスの秘書。美形の若者だが、女装したり、また男に戻ったりする。 |
シビャーキン | もと「プラウダ」紙の記者。妻を重病で亡くし、頭がおかしくなった。 |
ボルコフ | モスクワ警察の刑事。 |
シソイ長老 | ノブゴロド郊外に庵をかまえる修道士。聖人として名高い。出家する前は、第一巻に出てきた、マフィアで銀行家のソソでした。 |
クツェンコ | やり手の美容整形外科医。 |
ミランダ | クツェンコの娘。18歳。ニコラスから、英国風上流階級マナーを習うことになる。 |
インガ | クツェンコの妻。 |
ヤストゥイコフ | クツェンコの同級生で、いまは医療ビジネスのライバル。 |
ジャンナ | 恐ろしい美女マフィア。 |
マックスとトーリ | ジャンナの手下。 |
ミトリダート(ドミトリー・カルポフ) | もうすぐ7歳の天才児。よちよち歩きのころからラテン語やフランス語やその他の森羅万象を理解し、瞬時に全てを記憶する。立身出世を狙った父親によって、エカテリーナ二世のもとに連れてこられた。ミトリダートというのは、天才であることが分かってから、親父につけられた芸名。由来は、古代ポントスの王ミトリダテスではないかと思われます。なお、「ジャンル」シリーズの第四巻「クエスト」でも再登場します。 |
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アレクセイ・ヴォイノヴィチ | ミトリダートの父。もと美男の近衛騎兵将校で、女帝エカテリーナの側近をめざすが失敗。今度は天才児の息子をネタに、女帝の気を惹こうとする。 |
エカテリーナ二世 | 有名なロシアの女帝(在位1762-1796)。もともとはドイツ人。 |
皇子と皇孫 | 小説の中では実名を伏せられていますが、エカテリーナの息子で次の皇帝パーヴェルと、孫でその次の皇帝アレクサンドル一世。エカテリーナの後継者として、この二人のどっちを皇帝にするかをめぐって、宮廷内で熾烈な権力争いになる。 |
プラトン・ズ―ロフ | 女帝の愛人で、権力をほしいままにしている。ズーボフという実在の人物がモデル。 |
パブリナ | ハブロンスカヤ伯爵夫人。美女。夫と死別後、ズ―ロフに言い寄られている。 |
ピーキン | ズーロフの手下で、プリアブラジェンスキー連隊の大尉。乱暴者の悪党。 |
メタスタージオ | ズ―ロフの秘書。イタリア系。皇孫アレクサンドルを支持する一派で、エカテリーナを毒殺しようと企む。 |
マースロフ | 秘密警察の長官。 |
ダニラ・フォンドーリン | 森の中に一人で住んでいるおっさん。医者で学者。サムソンという1人息子を、幼くして亡くしている。苗字の「フォンドーリン」は、子孫の代ではなまって「ファンドーリン」になります。 |
シゾーフ | ノブゴロド市の官吏。 |
リュバービン | ダニラの旧友。開明的な農場経営をしている。 |
ダヴィッド・ドルゴルーコイ公爵 | パブリナの叔父さんでモスクワ知事。エラスト・ファンドーリンのシリーズ4~6巻に出てくるドルゴルーコイ公爵の祖先と思われます。 |
ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。
第一巻でいろいろあって、アルティンと結婚し、ロシアに帰化したニコラス。アドバイス専門業という変な仕事のかたわら、ファンドーリン一族の歴史を研究している。
あるとき事務所に、頭のおかしいシビャーキンが訪ねてきて、わけわからんことを言ってニコラスを怒らせる。
しかしその夜、ニコラスの家に警官のボルコフがやって来る。シビャーキンが殺され、彼のポケットから、ニコラスに「死刑判決」を下す、という脅迫状が見つかったという。
それから、ニコラスは謎の組織によって、執拗に命を狙われる。秘書のワーリャの助けで逃げ回るが、いろいろバイオレンスな展開になる。
結局つかまり、脅迫されて、医師クツェンコの娘ミランダの家庭教師をするという、変な任務を命じられる。
クツェンコは同級生のヤストゥイコフとビジネスで争っており、お互い暴力も辞さない間柄。争いに巻き込まれたニコラスは、ミランダを守ろうとするが、ますますバイオレンスな展開になる…。
7歳足らずで大人なみの知性を持つ天才児ミトリダートは、父に連れられて、ペテルブルクの宮廷にやってくる。たまたま、エカテリーナ二世の愛人ズ―ロフ公爵の手下たちが、女帝暗殺を企てていることを知る。とっさに暗殺を阻止したミトリダートは、エカテリーナのもとで養育されることになる。
暗殺計画を知ったため、執拗に命を狙われることになったミトリダート。秘密警察長官のマースロフに助けを求めるが、マースロフはズ―ロフの手下ピーキンにぶちのめされる。
結局、宮廷から逃げ出す形になったミトリダートは、伯爵夫人のパブリナに救われる。彼女はズ―ロフに言い寄られて逃げるところで、一緒にモスクワへ行くことになる。
しかし森の中で、パブリナを追って来たピーキンに捕まる。脱出したミトリダートは、謎のおっさんダニラ・フォンドーリンに助けられる。
ダニラは知性も武術もピカイチで、ピーキンをぶちのめし、パブリナを救出する。しかし、その後もミトリダートは、行く先々で殺されそうになる。
パブリナは、ミトリダートを救うため、自分が犠牲になってズ―ロフのもとに行くことにする。ダニラは、ミトリダートを安全な父親のもとに送り届ける。再会を喜ぶ父と子。すべては解決したかと思いきや、ミトリダートをつけ狙う、黒幕の正体がついに明かされる。
現代では、ニコラスが、ミランダをヤストゥイコフ一味から守ろうと奔走する。その中で、彼女と父クツェンコの関係に隠された秘密が明らかになる。
一方18世紀では、真の黒幕によって、ミトリダートは絶体絶命の危機に陥る。その後の展開によって、現代につながるファンドーリン一族の歴史が明らかになる…。
参考画像など。
大帝と言われるエカテリーナ二世。ドイツから嫁いできて、夫のピョートル三世をクーデターでぶち殺した、恐るべき女性。本人は、夫を殺す気はなかったらしいですが。 最初は啓蒙君主だったが、フランス革命の飛び火を恐れて、後半は反動的になったそうな。 | |
エカテリーナの、30歳も年下の愛人プラトン・ズーボフ。女帝の愛人は、他にも大勢いて、隠し子もいたそうです。 | |
エカテリーナの子で、次代の皇帝パーヴェル。作中では「皇子」と実名を伏せて書かれています。 父親は、エカテリーナの夫ピョートル三世ではなく、愛人のサルトゥイコフ伯爵だ、という疑惑があるそうな。母のエカテリーナを嫌悪し、女帝の死後は、いろんな政策を白紙撤回。ついにはクーデターで殺害された。 | |
パーヴェルの子アレクサンドル一世。作中では、実名を伏せて、「皇孫」と表記されています。父を打倒するクーデターに加わっていたそうで、なかなかのワルですな。 ナポレオンの侵攻を撃退したのが、主な業績。 |