タイトル通りのスパイ小説。1941年、第二次大戦の独ソ開戦前夜が舞台です。
フランスを征服したヒトラーは、イギリスと戦争中ながら、続いてソ連に侵略を決意。奇襲を成功させるため、防諜部門「アプヴェーア」に、攻撃開始日がソ連に絶対ばれないよう、スパイ工作を命じます。
その作戦に立ち向かうのが、主人公のドーリンと、上司のオクチャーブリスキー。
ドイツ軍のスパイは、ソ連指導部の中枢にまで潜入している模様。二人は、ドイツ軍の真の狙いをつかもうと、大活躍しますが…。
史実としては、ドイツ軍は完全な奇襲に成功し、初戦で大勝利を収めます。スターリンは、部下からの警告をすべて無視し、「ヒトラーの侵略はない」と判断。おまけに、優秀な軍司令官をみんな粛清していたこともあって、不意を突かれたソ連軍は総崩れに。
まあ、なんとかもりかえし、最後はヒトラーを滅ぼすわけですが。
なんでスターリンが「ヒトラーは攻めてこない」と判断したのかがナゾなわけで、この小説でも、ここが大きなポイントになっております。
エゴール・ドーリン | 主人公。イケメン。ボクサー。苗字からして、エラストのシリーズやニコラスのシリーズでおなじみの、ファンドーリン一族と関係があると思われます。 |
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ナジェージダ | 看護婦。ドーリンの彼女的な存在。 |
オクチャーブリスキー | ソ連国家保安部の対ドイツ班長。スキンヘッド。オクチャーブリというのは「10月」のことで、ロシア10月革命での功績を祝して、政府から与えられた苗字なんだとか。10年前の1931年が舞台の第四巻「クエスト」でも再登場します。 |
ナルコーム | 国家保安部の部長。「ナルコーム」というのは名前ではなく、「ナロードヌイ・コミッサール=人民委員」の略らしいです。 |
コーガン | ソ連国家保安部の、対イギリス情報班長。 |
ペトラコヴィッチ | 国家保安部に勤務する女性隊員。 |
セローヴァ | 人気の映画女優。 |
ヴァッサー | ドイツ軍の大物スパイ。 |
カルペンコ | ウクライナ人。ドイツ軍のスパイとして働く。無線通信士。 |
提督 | ドイツ軍の防諜部門「アプヴェーア」の司令官。愛称が「ヴィリー」だということなので、実在の人物ヴィルヘルム・カナリス提督のことですねきっと。 |
将軍 | ドイツ軍防諜部門「アプヴェーア」のNo.2。対ソ開戦日を欺瞞するため、巧妙な作戦を発動する。なお、その正体は、「ブルーダーシャフトのシリーズ」の主人公ゼップ・フォン・テオフェルスです。彼の息子も、スパイとしてソ連に潜入するようですが、この息子も、「ブルーダーシャフトのシリーズ」第五幕「奇妙な人」にちらっと出てきましたな。 |
ネタバレにならない程度に解説。
元パイロットで、イケメンボクサーのドーリンは、ソ連国家保安部のオクチャーブリスキーにスカウトされ、対ドイツ軍スパイ作戦に参加する。
ドイツからパラシュート降下で潜入するスパイを待ち伏せ、とっ捕まえる。捕まえたのは、ウクライナ人で無線通信士のカルペンコだった。
ドーリンは、カルペンコの身代わりになり、ドイツの大物スパイ・ヴァッサーと接触する。慎重なヴァッサーはなかなか姿を現さず、連絡係と撃ち合いになったりする。
そんな中、ドーリンは、急に恋仲になった娘ナージャと、急に破局したりする。
待った甲斐あって、ヴァッサーから呼び出しがかかる。ドーリンが行ってみると、謎の女ペトラコヴィッチがいた。睡眠薬をくらってつかまったドーリンは、地下室に軟禁され、無線通信をさせられる。
ひどい軟禁生活で死にかけるドーリン。しかし、何とか逃げ出す。オクチャーブリスキーのもとにたどりつき、ペトラコヴィッチをとっ捕まえる。
あろうことか、ペトラコヴィッチは、国家保安部の隊員だった。あやしい行動をとるが、とにかく自宅へ連行し、ヴァッサーに連絡させようとする。
そこへヴァッサーもやって来る。逃げられそうになるが、ドーリンの活躍でとっ捕まえる。自白剤で白状させると、ドイツ軍の攻撃は10日後に開始されるという。
オクチャーブリスキーとドーリンは、この重大情報を、保安部トップのナルコームに知らせようとする。しかし、ナルコームはずっと出張中でいない。
どうも様子がおかしいが、オクチャーブリスキーは女のところに息抜きに行く。ドーリンはオフィスで休息。
ソファーで寝ていると、戻って来たナルコームにすごい剣幕で起こされる。ドーリンとオクチャーブリスキーの知らぬところで、事態は思わぬ方向へ急展開していたのだった…。
この作品は、2012年4月公開で映画化されたそうで、その画像など。
主人公のエゴール・ドーリン。イケメンですね。 | |
国家保安部のオクチャーブリスキー。帽子の上が青いのが、保安部門のしるしなんだそうです。 | |
ドーリンはボクサーでした。 | |
ドーリンと彼女のナージャ。 | |
保安部イギリス担当のコーガン大尉。ずいぶん顔の小さい人だな。 | |
保安部のトップ、ナルコーム。 | |
ドイツのスパイ。大物スパイ"ヴァッサー"との連絡役。 | |
謎の女ペトラコヴィッチ。ドーリンを監禁して虐待する。 | |
パラシュート降下でロシアに潜入してくるドイツスパイを、とっ捕まえたオクチャーブリスキーたち。 | |
ドーリンとオクチャーブリスキーは、レストラン「モスクワ」で豪遊。スターリン時代に、こんなリッチなレストランがあったんですね。 | |
レストラン「モスクワ」で、女優のセローヴァをくどくオクチャーブリスキー。 | |
独ソ開戦前夜のモスクワ。垂れ幕のスローガンは、「我々すべてのことを、クレムリンのスターリンは気にかけている!」 …確かに、「反逆する奴はいねーか」と気にかけていたでしょうね。 |