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第五巻 装飾家 (中編集『特殊任務』)

中編集『特殊任務』の二話目は、ロシアにやって来た切り裂きジャックが、ファンドーリンと対決するお話。いわゆる猟奇殺人ものです。

4月のパスハという、なんかロシア正教のお祭りの6日間が舞台になっています。パスハはキリストの復活祭のことで、期間中は肉類を節制したりとかあるらしい。

各章の頭には、「4月4日 聖火曜日 朝」とか記してあって、ちょっと映画のセブンみたいです。ただ1章ごとに1日となっているわけではありません。

タイトルはロシア語で「デコラートル」ですが、これについては、作品中の切り裂きジャックの日記で

イギリスで、かつてなかった最新の職業が生まれている。"decorator" ― 家やショーウインドー、祭日の街の装飾などをする専門家だ。

私は庭師ではない。"decorator"なのだ。

と説明されています。殺した人の体をバラバラにして、「デコレーション」をほどこすのが、切り裂きジャックのいかれた趣味ということなんですね。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

チュリパノフ「スペードのジャック」に続いて、ふたたび登場。ファンドーリンの部下になって3年目、多少は捜査の技術が身についたようです。性格が善良で、ファンドーリンに忠実なのは相変わらず。こんな善人でいいのかなー 出世してうぬぼれてファンドーリンの恩を忘れたりする方が、人物像に深みが出るんちゃうかなー と思ってたら、小説のラストの方でえらいことになりました。
切り裂きジャック御存じ猟奇殺人の草分け。売春婦などを殺害し、内臓をバラバラに取り出す、いかれたやつ。
ソーニャチュリパノフの妹(姉?)。知的障害がある。
アンゲリーナファンドーリンと同棲している美女。もー とっかえひっかえですね。信心深く、教会の勤労奉仕活動に参加している。もともとは田舎でひっそりと暮らしていて、ファンドーリンとの出会いは、第十一巻 短編集『軟玉の数珠』の「バスカコフの大蛇」で描かれています。
ドルゴルーコイ公爵モスクワ総督。
フロールドルゴルーコイ公爵の従僕。
ザハロフ警察の鑑識医。
イージツィンモスクワ検察部の予審判事。ファンドーリンにライバル心を燃やす嫌なやつ。
ステニッチ容疑者の一人。医学部生だったが、ちょっと神がかり的になり、いまはただの看護師として働いている。
ニスヴィツカヤ容疑者の一人で助産婦。革命組織と関わって、逮捕された過去がある。鉄の女。
ブールイリン容疑者の一人。ザハロフと医学部の同級生。金持ちでいたずら者。ファンドーリンに悪質な挑発をする。
トルストフ伯爵内務大臣。さっさと事件を解決しろと、ドルゴルーコイ公爵を叱責にやって来る。
イネサ切り裂きジャックを目撃した売春婦。
パホメンコ墓地の番人。素朴なウクライナ人。
ソーツキーザハロフたちと医学部の同級生。事件を起こして懲罰中隊に送られ、脱走をはかって死亡。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

モスクワで猟奇的バラバラ殺人事件が発生。

ファンドーリンとチュリパノフは、売春婦のバラバラ殺人事件を捜査。その手口から、イギリスを震撼させた殺人鬼"切り裂きジャック"の犯行と判断する。

ファンドーリンの指示で、チュリパノフは墓場を掘り起こし、過去にも同様の犠牲者がいたことを発見する。

モスクワ総督ドルゴルーコイ公爵は、事件が発覚すると自分の地位が危なくなることを恐れ、極秘捜査をファンドーリンに命じる。

医学に通じた容疑者をリストアップ。そんな中、謎の小包が。

ロンドンでの切り裂きジャックの最後の犯行は11月9日であることから、ファンドーリンはそれ以後にイギリスからロシアに渡航した医学関係者をリストアップする。

あやしい人物として、看護師ステニッチと、助産婦のニスヴィツカヤが残る。

そんなさなか、ファンドーリン宛てに、切断された人の耳が郵便で届く。

検事部のイージツィンが勇み足。

チュリパノフはステニッチとニスヴィツカヤに会い、様子を探る。一方のファンドーリンは、耳の送り主が不良金持ちのブールイリンであることをつきとめる。

そんなこんなでせっかく捜査している中、ファンドーリンをライバル視する予審判事イージツィンは、功を焦り、三人の容疑者をまとめて逮捕してしまう。その結果、大変な惨事になる。

日曜までに解決しないと、ドルゴルーコイもファンドーリンもまとめてクビに

事件はついに明るみに出る。皇帝の命を受け、内務大臣トルストフ伯がやって来る。

ファンドーリンは、日曜までに解決することを約束する。さもないと、すべて皇帝に報告され、モスクワの関係者はまとめて免職になってしまう。

しかし、切り裂きジャックの魔の手は、新たな犠牲者を生みだそうとしていた…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

共同墓地の番小屋で、お茶を飲む番人パホメンコとチュリパノフ(左)。左上はモスクワ検察判事のイージツィン。右上は鑑識医のザハロフ。
切り裂きジャックの犯行跡を探すため、墓地から遺体を掘り出す警官たち。
容疑者に会うため、病院を訪ねたチュリパノフ。連れているのは、知的障害のある妹(姉?)のソーニャ。日本では、ここまで露骨なイラストはNGかもしれませんねー。

上の写真は容疑者。左が看護師のステニッチで、右が助産婦のニスヴィツカヤ。
マサのトレーニングに付き合わされるチュリパノフ。「努力」という鉢巻はいかがなものか。
ファンドーリンにちょっかいを出したため、お仕置きを受けるブールイリン。
ペテルブルクから内務大臣トルストフ伯が出向いて、モスクワ総督以下を厳しく叱責。

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