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第五巻 スペードのジャック (中編集『特殊任務』)

第五巻は、中編集『特殊任務』というタイトルで、「スペードのジャック」と「装飾家」という二つの作品が一冊になっています。どちらも、モスクワ総督ドルゴルーコイ公爵の下で、「特殊任務の官吏」としてファンドーリンが活躍するお話。

新キャラのさえない官吏チュリパノフは、二つの話の両方に登場します。物語の大部分は、彼の視点で描かれる仕組み。かなりの地味キャラですが。

「スペードのジャック」は、天才詐欺師とファンドーリンが、タヌキの化かし合いを繰り広げるストーリー。いわゆる詐欺ものです。

冬のお祭(マースレニツァ)に沸く二月のモスクワを舞台に、軽快な感じで話が進んでいきます。

登場人物

ファンドーリンとマサ以外の登場人物たち。

チュリパノフひょんなことから、ファンドーリンの下で働くことになった、憲兵隊の下級エージェント。チュリパンというのはチューリップのことで、さえない苗字なのを気にしている。人柄は善良だが、見た目は貧相。うだつの上がらない文書配達係だったが、ファンドーリンとの出会いによって、栄達の糸口をつかむ。
モームス(ミーチャ・サビン)「スペードのジャック」を名乗る、すご腕の詐欺師。通称の「モームス」というのは、ギリシャ神話に出てくる毒舌家なんだそうです。
ミミモームスの恋人&詐欺のパートナー。身が軽い。
ドルゴルーコイ公爵モスクワ総督。
フロールドルゴルーコイ公爵の従僕。
アリアドナオプラクシン伯爵夫人。なのですが、家出してファンドーリンと同棲している。美女だがヒステリー。
ピッツブルク卿モームスに騙され、ドルゴルーコイ公爵官邸の買取契約をしたイギリス人。
スリュニコフモームスに情報を流している官吏。
サムソン・エロプキン宿屋の経営や高利貸しで大儲けしている悪党。
クジマーエロプキンのボディーガード。残虐で、ムチを使って敵をいたぶる。
チシュキンエロプキンのもと部下で、彼を恨んでいる。

ストーリー

ネタバレにならない程度に解説。この作品は日本語訳が出ていませんが、英訳があるので、結末はそちらでご確認ください。

モスクワ総督ドルゴルーコイ公爵が、詐欺事件に巻き込まれる。

さえない憲兵隊エージェントのチュリパノフは、偶然、ドルゴルーコイ公爵に呼ばれたファンドーリンに同行する。なんと、モスクワ総督である公爵が、詐欺事件に巻き込まれたのだ。

ドルゴルーコイ公爵は、ドイツの公爵から紹介された慈善活動家に騙され、屋敷を売却する契約書にサインしてしまっていた。書類には、モスクワで話題の詐欺師「スペードのジャック」の署名が。

怒り心頭の公爵は、ファンドーリンに極秘で捜査を命じる。なりゆきでチュリパノフが補佐することになる。

ファンドーリンと詐欺師モームスが熾烈な騙しあい。

ファンドーリンは、新聞広告から、あやしい宝くじキャンペーンを見つけ、会場に踏み込む。それこそまさに、スペードのジャック=モームスの、新たな詐欺プロジェクトだった。

モームスは間一髪で逃げだす。ファンドーリンに復讐すべく、ファンドーリンと不倫しているアリアドナの旦那に化け、貴重品一式を盗み出す。

怒りに燃えるファンドーリンは、ニセのインド貴族に扮してモームスをおびき寄せる。第三巻「レヴィアタン」での経験が、ここで活かされたわけです。

やや唐突な感じで、エロプキンが登場。

ファンドーリンが手ごわいと知ったモームスは、モスクワを離れようとする。しかし途中で、金持ちの悪党エロプキンをターゲットにすることになる。信心深いエロプキンを、神がかり的な仕掛けで騙そうとするが…。

挿絵集

アクーニン作品でおなじみの、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。

天下のモスクワ総督、ドルゴルーコイ公爵を巻き込んだ詐欺事件が発生!

ハンカチで汗をふいているのがドルゴルーコイ。書類を見ているのが、ごぞんじファンドーリン。左端の頭つるつる&頬ひげもじゃは従僕フロール。チェックの服がイギリス人ピッツブルク卿。右端がチュリパノフ。左上の写真もそうです。
天才詐欺師モームスと、恋人のミミ。モームスは元は軽騎兵でした。
オプラクシン伯爵に化けたモームスに、まんまと騙されるチュリパノフとマサ。
今度はファンドーリンが反撃。インド太守の息子アフマド・ハーンに扮して、モームスをひっかける。
なりゆきで(?)モームスに騙されそうになる、金持ちの悪党エロプキン。黒髪のでかいのが、ボディーガードのクジマー。ムチを持ってます。

作品中の小ネタ

歴史は繰り返す?若きチュリパノフを指導する、ファンドーリンの脳裏に蘇る思い出とは…。

ぱっとしないエージェントのチュリパノフは、ファンドーリンと出会うことによって、にわかに人生が開けます。アシスタントとしてファンドーリンの補佐をすることになるのですが、さてそのシーンで、ファンドーリンいわく、

「私を"閣下"とは呼ばないでくれ、軍隊じゃないんだから。"エラスト・ペトローヴィチ"で十分だ。あるいは、…あるいは、単に"ボス"と呼んでくれたまえ。短くて、都合がいい」

ファンドーリンはどういうわけか沈鬱に微笑むと、「審議」を続けた。

というわけなのですが、なぜ「ボス」と呼ばせて沈鬱に微笑むのかというと、それは第一巻「アザゼリ」を読めば分かるのです。若くて駆け出しのファンドーリンが多大なる影響を受けた、上司ブリッリングとのエピソードを思い出したんですねー。

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