TOP >ブルーダ―シャフトのシリーズ >幼児と悪魔
シリーズの一作目は、第一次大戦勃発直前の、1914年初夏が舞台。
ロシア軍の部隊配置計画を盗み出そうとするフォン・テオフェルスの作戦を、たまたま巻き込まれた学生ロマノフが阻止しようとします。
タイトルの「幼児と悪魔」というのは、たぶん幼児=子供っぽい熱情青年ロマノフで、悪魔=すご腕の諜報員フォン・テオフェルスを指すのでしょう。
この作品は「コメディー」のジャンルらしいが、べつに笑えるところはないですが。どのへんがコメディーなんでしょうか。
時代は、サラエボでオーストリア皇太子フランツ・フェルディナントが暗殺された直後。その後の史実としては、外交努力もむなしく、オーストリアがセルビアに宣戦、ロシアが総動員、そしてドイツが総動員・宣戦布告で、ヨーロッパを巻き込んだ大戦争になるわけであります。
そんでもって、ロシア軍は二手にわかれて東プロイセンに攻め込むが、おそまつな通信事情から、ヒンデンブルク&ルーデンドルフのコンビにタンネンベルクの戦いで完敗、幸先の悪いスタートとなるのであります。
学校ではまず習いませんが、この辺の歴史はバーバラ・タックマンの名著『8月の砲声』に詳しい。あわせてお読みください。
ロマノフとフォン・テオフェルス以外の登場人物たち。
シーマチカ | ロマノフの彼女。シーマチカというのは、セラフィマという名前の愛称です。 |
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コズロフスキー公爵 | ロシアの二等大尉。もとは近衛騎兵将校だったが、落馬・負傷して、不本意ながら防諜部門に転属。 |
ルーチニコフ | コズロフスキーの部下。ベテランの諜報員。 |
ティモ | フォン・テオフェルスの執事。身長2mの巨漢。 |
リャプツェフ | ロシア近衛騎兵将校。金に困り、ドイツにロシア軍の機密を売ろうとする。 |
ネタバレにならない程度に解説。
ロシア防諜部隊のコズロフスキー公爵は、内通者がドイツに、ロシア軍の機密文書を渡そうとする現場を押さえる。もう少しでドイツ軍のフォン・テオフェルス大尉を捕まえるところで、たまたま居合わせた青年ロマノフが台無しにしてしまう。
罪を挽回したいロマノフは、コズロフスキーと共にテオフェルスを追う。文書は、まだロシア近衛騎兵連隊の敷地内に隠されていることを突き止める。
一方コズロフスキーは、テオフェルスのアジトに部下を突入させるが、すご腕のテオフェルスにみんなやられる。
ロマノフは、ドイツ市民とロシアの騎兵将校のサッカー試合にまぎれて、テオフェルスが文書を取りに来ると推理する。
コズロフスキーは、ゴールキーパーとして選手に加わり、テオフェルスを捕まえようとする。スポーツマンのロマノフに、セービングの特訓を受ける。ちなみにこの時代、ロシアでサッカーは超マイナーです。
そして試合当日、コズロフスキーの守備で、ロシアチームは善戦する。しかしそのどさくさで、テオフェルスは文書を無事に持ち出す。
たまたま見つけたロマノフは、後を追う。
森の中を追跡し、ついにテオフェルスを追いつめる。やけになったのか、テオフェルスは決闘を申し出る。二つのワインのひとつに毒を入れ、ロシアンルーレットをしようと言うが…。
無声映画の雰囲気を出すため、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。
ロマノフのせいで作戦が台無しになったコズロフスキー公爵。 | |
フォン・テオフェルスの髭剃り中に、ロシアのエージェントが踏み込む。 | |
近衛騎兵連隊の友人に出会ったコズロフスキー公爵(右)。落馬&ケガで、華の騎兵からダーティーな防諜部隊に転属したため、会わせる顔がない。こういう、挫折のトラウマを抱えたキャラは好きですねー。 | |
コズロフスキーは、ゴールキーパーに扮してドイツ市民VSロシア近衛騎兵のサッカー試合に潜入するため、特訓を受ける。 | |
ロシア近衛騎兵将校のサッカー選手たち。 | |
部隊配置計画書を持って逃走するテオフェルスを追うロマノフ。 | |
どちらかに毒の入ったワインで、ロシアンルーレット式決闘をする、ロマノフとテオフェルス。 | |
上官たちに報告して、帰るテオフェルス。真ん中のヒゲ将軍は、フォン・ヒンデンブルクにそっくりですね。 |
このシリーズには、「クロニクル」として、巻末に、当時の歴史写真がついています。
いとこ同士にあたる、ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世(左)と、ロシア皇帝ニコライ二世(右)。大戦では敵同士になるが、結局、どっちも仲良く退位することになります。 | |
開戦時のロシア軍総司令官ニコライ大公。皇帝ニコライ二世のおじさんで、2mの長身。でかすぎ。肩の階級章がずいぶん前寄りに付いていますが、背が高すぎて見にくいからでしょうか。 | |
華やかに出征する近衛騎兵隊。しかし、開戦初頭に、ロシア軍はタンネンベルクで惨敗。その後ちょっと盛り返しますが、戦争に疲れた民衆に革命を起こされ、ロシア帝国そのものが崩壊してしまいます。 |