TOP >ブルーダ―シャフトのシリーズ >勝利の雷鳴とどろけ!
この作品は、「前線の描写」というジャンルだそうで。題名の「勝利の雷鳴とどろけ!」というのは、当時の戦時歌謡の歌詞らしい。
総攻撃を間近に控えた最前線で、攻撃地点の秘密を敵から守るため、ロマノフが欺瞞工作に活躍します。
今回は、南西方面の戦線が舞台なので、敵はドイツ軍ではなく、オーストリア=ハンガリー帝国軍。うーむ第一次大戦でオーストリアとロシアが戦ったことすら、ほとんどの日本人は知らんでしょう。
当時のオーストリアは、ハプスブルク家のフランツ・ヨーゼフ皇帝が統治する、中欧の大帝国。チェコとかハンガリーとかバルカン半島とか、みんなここの領土だったのです。
民族主義の高まりとともに、ハンガリーの自治権が拡大し、オーストリア皇帝がハンガリー王も兼ねる「二重帝国」という、よく分らん国家体制になっていたらしいです。
んでもって、バルカン進出を狙うロシアとは、古くからの敵であったわけです。
なにしろバラバラの諸民族の集合体でまとまりがなく、第一次大戦の中では、かなりの弱小キャラです。しかし、軍服がおしゃれなので、個人的にはポイント高い国です。
そのオーストリア軍をほぼ壊滅させたのが、1916年に発動された、ロシアの「ブルシーロフ攻勢」。ブルシーロフ将軍の発案・指揮したこの戦いで、オーストリア軍は、再起不能に近いような損害を受けたらしい。
ブルシーロフは、画期的な新戦法「浸透戦術」によって、今まで不可能だった塹壕線の大突破を可能にしたらしい。
というようなことも、日本では全く知られていませんね。
とにかく、この作品で、主人公のロマノフは、ブルシーロフ攻勢の主要攻撃地点をオーストリア軍から欺瞞するため、大活躍します。
第一幕では、ウブな学生だったロマノフですが、この作品も含め、各エピソードでつらい試練を体験し、非情で凄腕の諜報員に育っていくわけであります。
ロマノフ以外の登場人物たち。
コズロフスキー公爵 | おなじみキャラ。中佐に昇進してます。 |
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”南西方面軍司令官” | 名前はあえて伏せられていますが、実在の英雄アレクセイ・ブルシーロフ将軍。第一次大戦のロシア軍で、最高の指揮官と言われております。自ら着想した「ブルシーロフ攻勢」を指揮し、オーストリア=ハンガリー帝国軍を壊滅させた。 |
ジーリン | 騎兵二等大尉。第74歩兵師団「シュヴェイツァールスカヤ」所属の、防諜部隊指揮官。役立たずの男。シュヴェイツァールというのは門番のことですが、もともとの意味は「スイス人」。ロシアの門番は、スイス人が多かったそうで。で、門番や庭師をかき集めて編成された師団なので、このあだ名がついた。二流の兵士を集めた弱小師団ですね。そういえば、旧日本軍では大阪の師団が一番弱いとされていたらしいですが。 |
カリンキン | 役立たずのジーリンの後任として、ロマノフの補佐をする少尉。 |
スリーヴァ | ロマノフの補佐をする下士官。 |
アニチキン | 主計中尉。 |
ペトレンコ | 入浴・洗濯担当の主計少尉。 |
マーフカ | ウクライナ娘。ジーリンの情報提供者。アパナスを深ーく愛している。 |
アパナス | ウクライナの愛国主義者。マーフカを使って、ロシア軍の機密を探っている。 |
ネタバレにならない程度に解説。
間近に迫った大作戦の目標地点をオーストリア軍から欺瞞するため、ロマノフは第74歩兵師団に配属される。作戦の成功は、奇襲が成功するかにかかっているので、秘密は何としても守らなければいけない。しかし、オーストリア軍も、ロシア軍の動きを察知して、情報を探っている。
ロマノフは、情報提供者のウクライナ娘マーフカに会う。どうも彼女は、オーストリアの二重スパイくさい。
一方、前線に用事で来たアニチキン中尉は、たまたま攻撃の準備を目撃する。それを、洗濯を統括する主計少尉ペトレンコに、うっかり喋ってしまう。
怪しい行動をとるペトレンコを、ロマノフは、スパイではないかと疑う。彼の小屋に出入りする密輸商人をとっ捕まえてみると、ドイツ語の伝言メモを持っていた。
ロマノフは、マーフカとペトレンコをそれぞれ監視しつつ、オーストリア軍に偽情報をつかませようとする。
マーフカは、愛する上官アパナスの指令で、ロマノフを誘惑する。誘惑しているうちに本気で惚れそうになるが、結局、連絡係の密輸商人に、彼をぶっ殺させようとする。
一方、ペトレンコもロマノフに近づいてくる。さんざん飲んで眠ってしまったロマノフ。目覚めると、驚くべき事態が彼を待ち受けていた…。
無声映画の雰囲気を出すため、画家イーゴリ・サク―ロフ氏による挿絵がついています。
アレクサンドラ皇后の慰問を受ける、”南西方面軍司令官”。「仕事の邪魔だから早く帰れよ」と内心思っている。後ろで立っているのは、コズロフスキー公爵。 | |
ロマノフと、ウクライナ娘の情報提供者マーフカ。飲んだくれているのはジーリン大尉。 | |
アニチキンは、ペトレンコ主計中尉に、余計な事をしゃべってしまう。 | |
防諜部門のロマノフは、ほかの将校たちからは、白い目で見られている。 | |
部下の青年少尉カリンキンは、朝食中のロマノフに、自分はマーフカと結婚するとか言いだす。 | |
コニャックで親交を深める、ロマノフとペトレンコ。 |
このシリーズには、「クロニクル」として、巻末に、当時の歴史写真がついています。
ロシア軍大本営の作戦会議。手前奥の人はすごいヒゲですね。 | |
(左)第一次大戦ロシア軍で最高の名将、アレクセイ・ブルシーロフ。(右)西部方面軍司令官エーヴェルト将軍。かれが支援攻撃しなかったために、ブルシーロフ攻勢の成功を、さらに拡大できなかった、ということらしい。 | |
看護婦として奉仕活動をする、アレクサンドラ皇后。こんだけ頑張っても、ドイツ出身なので、国民には不人気。 | |
「敵陣を観察中」という写真だそうですが、まわりで地元住民が見物中。プラトークをかぶった子供がかわいい。 | |
ロシア軍の少尉。ロシア民族衣装風の軍服は、あまりかっこよくない、と思うのです。 | |
敵のオーストリア軍将校。戦力はいまいちだが、軍服は貴族的でおしゃれ。六角形の星の階級章と、筒みたいなケピ帽が特徴的。 |